2019年3月7日木曜日

父は母を愛していたのか?

実家の片づけをしていると、いろいろな発見がある。

私は、これまで、父は母を愛していなかったと思っていた。
しかし、どうやらそうでもないかもしれないらしいということがわかった。

父の歌が発見されたのだ。
「愚歌集」と題された巻物に、五七五七七が並んでいた。
母のことも詠んであった。
関連する固有名詞があったので、たぶん、別の人のことではないと思う。

父はもう他界したから、本人に尋ねるわけにはいかない。
それに、尋ねたところで、本当の答えが返って来る保証はない。

だから、私は勝手に救われておくことにした。
この歌たちは、本物に違いない。
彼の真心が籠っているのだ。
母が否定しようとも、私は勝手に思い込んでおくのだ。

人生に最も必要な力は、学力でもなく、経済力でもなく、思い込み力だ。

私はずっとふたりの喧嘩を目の当たりにしながら過ごした。
だから、ふたりは仲が悪いと思っていた。
折に触れ、こっそり母が父を悪く言うのを聞かされ、父のことを悪く思い過ぎていたのだと今では思う。
思い込み力がマイナスの方に働いてしまったのだ。

実家を離れ、ずいぶん経った今、客観的に考えて、父はそこまで悪人ではない気がする。
先日も、母は「ずいぶん冷酷な人」だと言っていたが・・・。

ま、少なくとも、父は母のことを好きな時期もあったらしい
ということがわかってホッとした。
私はふたりが恋愛結婚ではないことについて負い目を感じていたのだ。

思うに、ふたりの場合は父の「片想い婚」かもしれない。
というのも、先日母に確かめたところによれば、父のことを好きだと思ったことはないらしいから。
時代が時代だから、結婚せざるを得なかったらしい。
父は80代、母は70代だ。
私との間は、一世代入るくらい離れている。

・・・となると、オバはかなり特異な存在だと思う。
起業し一家の大黒柱となり、働きづめだった。今は90を過ぎている。
母は今、このオバの世話をして暮らしている。

とにもかくにも、ちょっとでも好きだった部分があったみたいなので、子供としてはほっとした。

父は、母に振り向いて欲しくて、ずっと酷いことをしていたのかもしれない。
経済的には自分のものにできても、それ以外の部分で難しさを感じていたのかもしれない。
好きだからこそ、というのが理解できた今となっても、やはり、父の言動はどうかと思う部分がある。
そういう役割を決めて生まれてきたのだろうけれど。

父のことを悪く書いているからといって、母のかたを持つつもりもない。
お互い様だと思う。
単に、相性が悪かっただけなのだ。
きっと、それぞれ別の人と暮らしていたら、うんと満足いく人生だったのかもしれない。

けれども、あえてふたりで居ることを選んだ、というのは何か惹かれるものがあったのかもしれない。
特に父は、離縁もできたろうに。

私は、ずっと父が世間体の為に離婚しないでいたのだと思っていたのだけれど
案外、母を離したくなかっただけなのかもしれないと思えてきた。

そういえば、父は食事の時にたまにこんなことを言っていた。
キャバクラとかには絶対に行かない、お金払ってモテてもちっとも楽しくない。
これは、つまり、遠回しに母のことが好きだと言いたかったのではないか?

キャバクラなんて行かない
と言っておきながら器用に通っている人もいるのかもしれないけれど
父に限っては、絶対に、本当に、キャバクラに行っていそうではなかった。

もしかして、小心者だから行けなかったのでは?
とも思うけれど。

これも、実は、母に嫌われたくないからなのかもしれない。
父の努力もむなしく、母は、充分すぎるほど父を嫌っていたけれど。
父は父なりに、母に気を遣っていたのかもしれない。

今になって悔やまれるのは、父ともっと話をしておけばよかったということだ。
私は父を嫌っていた、というよりは極度に恐れていたために
なかなかそういった機会を作ろうとしなかったのだ。
機会よりも言い訳を作り、ずっと実家を避けていた。

母が言うよりもうんと父は素敵な人だったのかもしれない。